執筆日:2024年8月8日
本記事は「自分名義の土地を自分の経営する会社で利用して経営をしている」という方に向けてのものになります。
自分には関係ないという方もおられるかと思いますが、該当する場合は相続税対策において非常に重要になりますのでご一読ください。
※この記事は執筆時の情報を基に作成をしております。そのため、最新の情報とは異なる場合があることをご了承ください。
同族会社を経営しており、土地は個人名義のままだけどそこに会社で工場や事務所を建てて商売をしているんだ、という方は、地代や権利金を会社から受け取っていますか?
「土地の無償返還に関する届出」をご説明する前に、この権利金についてご説明します。
借主である法人がその土地に例えば工場を建てた場合、借主には借地権が発生します。
借地権の定義としては、「建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権」をいいます。(借地借家法2一)
貸主に支払う一時金です。権利金の額は土地の時価×借地権割合です。
借地権割合は場所によって異なり、国税庁が定めています。一般的には、利用価値の高い地域、駅周辺や繁華街など、高度商業地域である程高くなります。例えば、私どもの練馬区石神井町2丁目は70%の地域がほとんどですが、銀座4丁目などは80%~90%です。
建物を建てて利用する権利が借主にあるのですから、貸主に対価を支払う必要がありますよね。借地権の対価として支払う一時金が権利金です。
権利金や相当の地代の支払いなく土地を無償で借りていた場合、「借主は貸主から借地権をもらったもの」とみなされます。借主である法人には権利金相当額の受贈益が計上され、法人税が課されることとなります。
あるいはいわゆる「相当の地代」を法人が貸主に支払っていれば権利金の認定課税は発生しません。
相当の地代の額は「その土地の更地価額のおおむね年6%程度の金額」ですので、17年支払えば所有権ごと買えてしまうことになりますね。一般的な商慣習からするとかなり高額といえるのではないでしょうか。
以下国税庁の、相当の地代の説明です。
No.5732 相当の地代及び相当の地代の改訂 [令和5年4月1日現在法令等] |
しかし、社長が自らの会社に貸しているだけなので、高額な地代を会社が支払わなくてはならないというルールは疑問視されていました。
そこで、この無償返還に関する届出書を提出すれば、「将来、法人は無償で土地を返還する」という前提の賃貸借契約となり、権利金の認定課税は避けられることになりました。
「本来は」このような状況に鑑みできた制度ですが、実は相続税の計算において多大な影響があります。
以下は土地の無償返還に関する届出書の概要と手続方法です。
土地の無償返還に関する届出 [概要] 法人が借地権の設定等により他人に土地を使用させた場合で、その借地権の設定等に係る契約書において将来借地人等がその土地を無償で返還することが定められている場合に、これを届け出る手続です。 この届出を行っている場合には、権利金の認定課税は行われないこととなります。 なお、この届出者は、土地所有者が個人である場合であっても、提出することができます。 [手続対象者] 借地権の設定等により他人に土地を使用させ、その使用の対価として権利金に代えて受け取る地代の額が法人税基本通達13-1-2に定める相当の地代の額に満たない場合に、その借地権の設定等に係る契約書において将来借地人等がその土地を無償で返還することとした法人とその借地人の連名により行います。 [提出時期] 土地を無償で返還することが定められた後遅滞なく [提出方法] 申請書様式に必要事項を記載・PDFファイルに変換し、e-Taxソフトで提出してください。 (国税庁HP 税務手続の案内>C1 法人税>C1-63 土地の無償返還に関する届出) |
相続税に多大な影響があると申し上げましたが、改めてこの届出書を提出するメリットをまとめてみます。
これは先述したとおりです。
「相当の地代」や権利金は高額ですが、これらは貸主の不動産所得となり、所得税が課されます。そこでこの届出書を提出し、法人が支払う地代を「通常の地代」のみとすることで不動産所得が大幅に圧縮されます。
ここで「通常の地代」のご説明ですが、権利金と「通常の地代」を合算したものが「相当の地代」です。「通常の地代」は「土地の時価×(1-借地権割合)×6%」で計算されます。
巷では「固定資産税の3倍」の額がこれに相当すると言われます。こちらの方が計算が簡単ですね。
ただし、間違いではないのですが、固定資産税は住宅用地ですと軽減を受けていますので、その場合は軽減分を加味して計算するべきでしょう。つまり単純に3倍にはなりませんので注意が必要です。
この項と次のⅣがより大きなメリットです。
正確な表現としては「土地の無償返還に関する届出書を提出していれば」だけではなく「賃貸借契約を締結していれば」なのですが、該当の土地を「貸宅地」として評価することができます。有償の賃貸借契約が存することが前提ですので、「使用貸借(=タダで利用)」であれば貸宅地としての評価はできません。
ここでいう、無償返還に関する届出書を提出した上での有償の地代とは、先述の「通常の地代」です。これを下回っていると使用貸借とみなされます。
貸宅地評価にどのような節税効果があるかといいますと、貸宅地評価は自用地の80%として計算するという点です。「使用貸借」であれば自用地であり、1億円の土地はそのまま1億円ですが、「賃貸借契約」があれば貸宅地ですので、8,000万円で評価されます。
20%減は大きいですよ!
これが実は最もインパクトの大きいメリットです。
小規模宅地の特例とは、自宅や事業に使用している土地など、要件を満たせば特例の適用により、評価額を大幅に減額できる制度です。小規模宅地等の特例は、相続税の税負担によって自宅を手放さなければならない、あるいは事業を廃業しなければならない、などの事態を回避することを目的に創設されています。
小規模宅地等の特例は、被相続人(貸主)がどのように該当宅地を使用していたのかで、適用される種類が異なります。簡単に申し上げれば、主に次のような土地が該当します。
A 自宅を建てて住んでいる土地
B アパートを建てて不動産事業をしている土地
C 土地だけを貸して、借主が事業をしている土地
土地の賃貸借契約を結んでいて、かつ適切に地代を支払っており、無償返還に関する届出書を提出しているのであれば、「貸付事業用宅地等」か「特定同族会社事業用宅地等」に該当します。
逆に申し上げれば、社長が法人にタダで使わせているような状況は、小規模宅地の特例の要件を満たさないことになります。
自宅として住んでいるのか、事務所として使っているのか線引きが曖昧な利用実態も、実際上多くあります。
小規模宅地の特例は、先述のAが最も評価減の効果が大きいものです。
もちろん実態通りに申告する必要があるのですが、場合によっては居住用として使用し、小規模宅地の特例において居住用として申告する方が相続税の圧縮になるケースもあります。ただし試算が必要でしょう。
法人株主と貸主が同一の場合、当該法人の純資産価額に借地権評価額を計上しますので、株式の評価額が上がります。
ただしこれは、例えば債務超過の法人であれば超過分と相殺されることになります。そもそも先述のⅢで得たメリットと対になるものですので、このデメリットをもって当届出書を提出しないという判断にはならないでしょう。
土地の無償返還に関する届出書を提出することで、権利金の認定課税を避けることが可能です。それだけでなく、相続が起こった際に土地の相続税評価額を減額できるというメリットもあります。
そのため、この届出書の提出の有無によって、相続税額が大きく変わってきます。提出していなかったために、多額の納税が発生する可能性もあるわけです。
先述のとおりデメリットもございますが、こちらについては多くの事例においてメリットを上回ることはありません。
しかし、当然ながら普遍的なスキームはなく、個別に試算をしてみる必要があります。
ご心配な方はどうぞ弊社までお問い合わせください。